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「ペルシダーに還る」 E・R・バローズ/佐藤高子訳 630円 |
| イネスの仇敵スヴィの王ファシュはペルシダー帝国を脱退し、カリ国に侵攻した。イネスは直ちに戦士たちを率いてカリに向かい、カリ王にむけて伝令を急派したが…地底世界シリーズの最後をかざる波瀾万丈の物語。 | |
| 立ち読みフロア | |
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一 デヴィッド・イネスはサリへ帰ってきた。一週間留守にしていたのか、あるいは何年もいなかったのか、それはわからない。ペルシダーは相変わらずの真昼だった。しかしペリーはその間に飛行機を完成していた。かれは鼻高々で、デヴィッド・イネスに見せるのを今や遅しと待ちかまえていた。 「飛ぶのかい?」イネスがたずねた。 「きまっているじゃないか」ペリーがぴしゃりといった。「飛行機が飛ばないでどうする」 「どうにもならないだろうな」イネスは答えた。「もう飛ばしてみたのかい?」 「まだにきまってるじゃないか。処女飛行の日は、ペルシダー年史に新時代を画(かく)する日となるんだ。きみのご臨席を仰がずに飛ばすと思うのかい?」 「そいつはかたじけない。ありがたく感謝するよ。で、いつ飛ばすんだい?」 「今、たった今さ。見に来たまえ」 「いったい飛行機を何に使うつもりだい?」 「爆弾を落すためだよ、きまってるじゃないか。まあ考えてもみたまえ。どんなにすさまじい暴威を発揮するか。そいつが頭上を旋回する。飛行機を見たことのないここの気の毒な連中が、穴から飛び出してくる。そこを想像してごらん。そういう連中がこれで長足の進歩を遂げることになるんだよ。考えてもみたまえ! わずか二、三個の爆弾で、一つの部落を吹っとばすことができるんだからね」 「一九一八年に終わった第一次大戦のあとでぼくが地上に帰ったとき、戦争に飛行機を利用するという話をずいぶん耳にしたが、そのおり、爆弾よりもはるかに大きな被害と死をもたらすという兵器のことも聞いたよ」 「そいつはなんだね?」ペリーは熱っぽい口調でたずねた。 「毒ガスさ」 「ははあ、なるほど。ま、そいつはあとで考えてみることにしよう」 デヴィッド・イネスはにやりとした。アブナー・ペリーほど心のやさしい人間はいないということをかれは知っている。ペリーの大量殺人計画が純粋に学問的なものだということもわかっていた。ペリーは純粋かつ単純な理論家なのだ。「ま、いいだろう。きみの飛行機を拝見しようじゃないか」 ペリーはせまい格納庫に案内した――石器時代のペルシダーには妙な取り合わせだ。「ほうら!」かれは誇らしげにいった。「あれがそうだ。ペルシダーの空を最初に飛ぶ飛行機だよ」 「あれが飛行機かい? ちっともそれらしく見えないぜ」 「それは、ある種のまったく新しい原理にもとづいているせいだよ」ペリーは説明した。 「飛行機というよりか、モーターと操縦席がてっぺんについたパラシュートみたいだぜ」 「いかにもさよう! わかりがいいねえ、きみは――ところが見た目にはわからない、いいところがあるんだな、これには。きみも知ってのとおり、飛ぶってことの危険の一つは、当然のことながら落っこちるということだが、こんどパラシュートの原理にもとづいて設計することによって、わしはその危険を大幅に減少させたんだよ」 「しかし、いったいどうやって空中にとどまっているんだい? 何によって浮かび上がるのかな?」 「機体の下に送風装置があるんだ。エンジンによって作動するんだがね。そいつが〈翼〉の下からまっすぐ上にむけて強力な空気の流れを間断なく噴出するんだ。むろん、飛んでいるあいだは気流によって機体を支えられているわけだ。この点は他のこれほど進歩していない設計のものと同様だ。そしてまた送風装置は急速に高度をあげる助けをする」 「で、きみはそのしろものに乗っかって上がろうっていうのかい?」イネスがたずねた。 「どういたしまして。その名誉はきみのためにとっといたんだよ。考えてもみたまえ! ペルシダーの天空を最初に飛んだ人間! きみはわしに感謝してしかるべきだよ、デヴィッド」 デヴィッド・イネスは微笑を禁じ得なかった。ペリーはあくまでも天真爛漫(らんまん)なのだ。 「そうだな」イネスはいった。「きみを失望させたくないから、アブナー、ひとつテストしてみるか――ただ飛ばないという証拠をきみに見せるためにね」 「驚くなよ。揚げひばりさながら天空高く舞い上がるからな」 飛行機を検分し、飛行ぶりを見物するために、すでに大勢のサリ人が集まっていた。かれらはみな一様に懐疑的だった。だがその理由はデヴィッド・イネスのそれとはまた別のものだった。かれらは航空学に関しては何も知らない。しかし人間は飛ぶことができないということは知っている。群集の中に美女ダイアンの姿があった。ダイアンはデヴィッド・イネスの妻だ。 「あなた、あれが飛ぶとお思いになって?」彼女はイネスにたずねた。 「いいや」 「ではなぜ生命を賭けるのです?」 「もし飛ばないのなら危険はないじゃないか。それにぼくがためしたらアブナーが喜ぶよ」かれは答えた。 「名誉にはならないわ。だってこれはペルシダーを飛ぶ最初の飛行機じゃないんですもの。あなたが飛行船だといっていたあの大きな乗物が飛行機を持って来ましたわね。あれを操縦していたのはジェイスン・グリドリーじゃなかったかしら。シプダールが墜落させてしまったけど」 二人は飛行機を入念に調べながら周囲をめぐった。パラシュートに似た単葉の骨組は竹製だった。外皮は大恐竜の腹膜で作ってある。恐竜の腹膜というのは、薄い透明な膜で、この用途にはうってつけだった。操縦席は翼の上部の中に作ってある。モーターは前方ににょっきりと突き出ている。そして後部には、エンジンとバランスをとるように設計されたとおぼしき長い尾部がある。そしてそこには、水平安定板、垂直安定板、方向舵、昇降舵がついている。 エンジン――ペルシダー最初のガソリン・エンジン――は第一級のできばえだ。これはペリーの指導のもと、精密機械なしで、石器時代の人々がほとんど手でこつこつと作り上げたものだ。 「エンジンはかかるかい?」イネスがたずねた。 「むろんかかるさ」ペリーが答えた。「もっとも、いささか騒々しいきらいはあるよ。それに、いくらか改善の余地はあるがね。それにしても調子はいいよ」 「そうだといいがね」とイネス。 「用意はいいかい、デヴィッド?」発明家はたずねた。 「いいとも」イネスは答えた。 「では操縦席にのぼりたまえ。操縦装置の説明をしてあげるよ。何もかもごく簡単だということがわかるから」 十分後、イネスが、「この飛行機の操縦法でわかることは全部会得したよ」というと、ペリーは地上に降りていった。 「みんな、どいた、どいた」ペリーはどなった。「今やきみたちは、まさにペルシダー史における新時代の開幕に立ち会おうとしているんだぞ」 一人の整備員がプロペラのところの位置についた。プロペラは地面からずいぶん上にあるので、かれは特別製の梯子(はしご)の上に立たなくてはならなかった。機体の左右にそれぞれ一人が立って車輪の下から車輪どめを取りのける態勢をとっている。 「始動(コンタクト)」ペリーがどなった。 「始動(コンタクト)」イネスが応じた。 プロペラのところにいた男がプロペラをまわした。と、エンジンはかかりそうにパタパタパタと音を立て、ついでぱったりと止まった。「こいつはおどろきだ」イネスが叫んだ。「ほんとうに点火したぞ。もう一度やってくれたまえ」 「もっとスロットルを開け」ペリーがいった。 整備員はふたたびプロペラをまわした。こんどはエンジンがかかった。整備員は梯子からとびおりて、梯子を引きずりながら離れた。デヴィッドはスロットルを今少し開いた。するとエンジンは機関座からとび上がりそうになった。まるで百人の人間が百台のボウラーを一度に製造しているような音がする。 デヴィッドは二人の男に、車輪どめを引けとどなった。だがモーターの騒音ごしでは誰にも聞こえない。手を振り、指をさして合図をすると、ようやくペリーがかれの望んでいることを理解して車輪どめをどけさせた。みんなが目を皿のようにして見守るうちに、デヴィッドはスロットルをさらに開いた。エンジンの回転が上がった。そして飛行機は動き出した! ただし後ろにむかって! 飛行機はぐるりとまわった。そしてイネスがモーターを切ることができないでいるうちにサリ人の群集の中へ突っこむところだった。 ペリーが頭をかきかき近づいてきた。「いったい何をしでかしてくれたんだね、デヴィッド。きみは飛行機を逆立ちさせるつもりかい?」 デヴィッド・イネスは声をたてて笑った。 「何を笑っているんだ?」ペリーが問いただした。「われわれは偶然、気体力学において何かセンセーショナルな発見をしたかもしれないんだよ。前にも後にも進む戦闘機を考えてみたまえ! 敵機をどうやって避けるか、その機動性を考えてみたまえ! どんなことをしてくれたんだ、デヴィッド?」 「この名誉はすべてきみのものだよ、アブナー。これはきみがやったことなんだから」 「わしがやったことだって? そいつはまたどうして?」 「きみはプロペラのピッチを逆にむけたんだ。この飛行機は後ろ以外の方向に進めないわけさ」 「ああ、そう」ペリーは弱々しくいった。 「それでも動くんだから」イネスはなぐさめ顔でいった。「それに簡単に直せるよ」 ペルシダーには時間というものがないから、プロペラを改変するのにどのくらいかかるかだれも気にするものはなかった。ペリーとかれの整備員二人をのぞいて全員が木陰や飛行機のかげに横になり、プロペラのピッチの方向が直ったとペリーが告げるまでそうしていた。 イネスが操縦席につき、整備員がプロペラをまわし、エンジンが始動し、車輪どめがぐいと引きのけられた。エンジンは咆哮(ほうこう)し、ボコボコ音をたてて踊った。機体はその震動にあわせて地面からはねあがらんばかり。イネスは操縦席の中であんまりはげしく振りまわされるので、操縦装置に見当をつけることも、その上に手足をのせていることもほとんどできないありさまだった。 突如として飛行機は前進をはじめた。惰力がついた飛行機は、ペリーが格納庫を建設するために選んだ長い平坦な土地の上を猛然とかけだした。イネスは懸命に操縦装置にとっ組んだが、飛行機はいっかな飛び立とうとしない。まるで嵐の海にもまれるようにはねまわるので、しまいには目がまわってきた。と、ふいに外皮が焔(ほのお)と化した。 イネスが焔に気がついたとき、機は滑走路の終わりに迫りつつあった。かれはモーターを止め、ブレーキをかけ、そして跳んだ。一瞬おくれてガソリン・タンクは爆発した。アブナー・ペリーの最新の発明は煙と消えたのである。 ……巻頭より |
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