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「日本の民話(神話編)」 藤澤衞彦著 315円 |
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この「日本の民話」は「日本の神話と昔ばなし」のシリーズで、日本の伝説・童話の研究に一生を捧げた著者による「日本伝承民俗童話全集」の電子ブックです。神話編、全国編、四国編、九州編、近畿・中国地方編、中部編、関東編、東北・北海道編の8巻からなります。この神話編には、「天の岩戸」「八岐(やまた)のオロチ」「因幡(いなば)の白兎」など、「古事記」や「風土記」など古い書物のなかの有名な神話を集めました。 藤澤衞彦(ふじさわもりひこ)(1885〜1967)東京生まれ。明治大学教授。風俗史・民俗学・伝説学・児童文学など、幅広い分野で研究に従事した。日本風俗史学会、日本アンデルセン協会、日本児童文学者協会など多くの学会・協会の設立、育成を手がけ、児童文化図書館長、日本伝説学会会長などを歴任した。主な著書に『日本伝説研究』『日本民謡・童謡研究』などがある。 |
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日本のはじめ 一 宇宙のはじめ むかしむかし、まだ天と地がくっついたまま、わかれずにいた、おおむかし、広い宇宙〔世界〕は、とろりとした、卵の黄身と白身の、かきまざったようなものでした。 どろん、ぺちゃぺちゃ、いりまじって、ごちゃごちゃした宇宙が、ながいことつづいているうちに、澄(す)んだものと、濁(にご)ったものとができてきました。 そのうちに、かるく、澄んでいたものと、おもく、濁ったどろどろとが、できてきました。澄んだものがいいました。 「もしもし、どろどろさん、わたしたちは、いつまでもいっしょに、ごちゃごちゃ、さわいではいられません、もう、気が立って、あなたたちと、はなれそうですよ。澄んだものは、濁ったものと、いっしょにゆかれそうもありません」 そういううちにも、澄んでいた気は、もやもやのぼりだし、うすくなびいて、いってしまいました。 「あれ、あれ、わたしたちを、とりのこして、澄んだものが、のぼってゆく」 「あれ、あれ、澄んだものが、上のほうに、立ちこもっている」 「こもっているもの、こめるもの、もやもやくもるもの、わたしたちは、これから、あなたたちを、雲とよびましょう」 と、とりのこされた、どろどろがいいました。 雲はそのあいだにも、もやもや、むくむく、ひろがって、天(あめ)〔てん〕となりました。 雲が天から見おろすと、どろどろの、重く濁ったものが、しずみだし、濃(こ)くとどこおるのが見られました。 「あれ、あれ、重く濁ったものが、しずみだし、かわってゆく。濃く、とどこおった、あなたは、どろどろのちさん、かたまりのちさん、わたしたちは、これから、あなたたちを、つち〔地〕と、よびましょう」 と、天となった雲がいいました。 こうして、はじめ一つであった世界が二つにわかれました。 日本のいいつたえは、その、はじめにできた天を、高天原(たかまがはら)といい、のちにできた地を、国といいます。 この、天と地との間には、大空が、かかっていました。 【上代(じょうだい)〔奈良時代前後〕の人たちは、天は、固まったかたちの一つの層であるとおもっていました。そして、そこに、生き物のすめる一つの世界があると信じていました。日本民族の貴い種(しゅ)は、やがて、この天上の世界から降りてきた、神の子孫だと、かんがえていたようです。 神は、この天と地の世界を、自由に、ゆききすることができるとおもっていました。でも、この地上に住むようになった神の子孫のためには、天地の間の通路が必要であったはずです。そこで、はじめは、天と地が、相接していたという想像が生まれ、天地開闢説(かいびゃくせつ)を生じるようになります】 二 天(あま)の浮橋(うきはし) 天〔高天原(たかまがはら)〕と、地とが、ひらけはじめたときのことでした。 高天原に、神さまがお生まれになりました。いちばんはじめにお生まれになった神を、アメノミナカヌシノカミといい、つぎにお生まれになった神を、タカミムスビノカミ、そのまたつぎにお生まれになった神を、カミムスビノカミといいます。この三神はまだ定まらない宇宙を、ちゃんと造りあげることに、力をつくされた神さまなので、造化(ぞうか)の三神といわれます。 高天原では、そののち、つぎつぎ神さまがお生まれになりました。 でも、地の世界は、まだ砂土(すなつち)が浮きただよい、まるで、クラゲが海水に泳いでるように、ちゃんと固まりませんでした。それで、天の神さまたちは、おあつまりになって、地の世界〔国〕を、つくろいなおし、固めさすことについて相談されました。 「地の世界の国のためには、いちばん若い、元気な、イザナギノミコト〔男神〕と、イザナミノミコト〔女神〕の、二人の神さまを、おくだしになるがよろしい」 と、いうことにきまって、天の神さまは、おふたりの神に、 「地の世界は、まだ、ふわふわして浮いています。これから、二人でいって、つくろいなおし、あのどろどろしているところを、固めて、よい国をつくってください」 と、おっしゃいました。 イザナギノミコト、イザナミノミコトのお二神(ふたり)は、 「はい、二人でたすけあって、やってみましょう」 と、元気におこたえになりました。 それで、天の神さまは、ながい一本の、玉かざりのついた美しい矛(ほこ)をおとりだしになって、 「この矛は、《天(あま)の瓊矛(ぬぼこ)》といって、高天原のたいせつな宝物です。これをもっていって、ただよっている国を、つくろいなおし、固めあげなさい」 とおっしゃって、《天の瓊矛》を、おわたしになりました。 二神は、お受けして、いさましくでかけました。 天の世界のうつくしさは、きれいな雲が、もくもく、むくむくとつづいて、はてしもなく、ぴかぴか光る紅い雲は波のようです。その雲の波の上を、ぴかぴか輝く白い雲が、ふわふわと浮いてきて、二神の前までくると、ぴたりと止まりました。 二神が、その浮く雲の上におのりになると、その白雲は、ひとりでに動きだしました。そして、まもなく、天(あま)の浮橋におつきになりました。 天の浮橋は、天と地との境にある、大きな橋でした。青い青い大空の上に、くっきりと、輝いて立っている。それは天から、下の世界にかかっている、大空の橋でありました。 ……冒頭より |
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