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「火星の合成人間」
E・R・バローズ/南山宏訳 420円 |
| 火星の名外科医ラス・サバスは合成人間を作り出したが、合成人間たちはみずから王国を建設して火星全土征服の野望を燃やすようになった。ヘリウム帝国海軍の青年士官ボル・ダジは、彼らの捕虜となった愛する女性を救うため、みずから合成人間に変身して捨て身のバクチに命を賭けた……バローズのSF変身譚の傑作。痛快火星シリーズ第
8弾! エドガー・ライス・バローズ(米、1875〜1950)シカゴ生まれ。75歳で亡くなるまでに、20冊あまりのターザン物、 この「火星シリーズ」をはじめ、金星や月や地底やアメリカ西部を舞台にした数多くの小説を書き、大人気作家となった。その作品の多くは今日でも「一服のよく効く清涼剤」として延々と読みつがれている。 |
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| 立ち読みフロア | |
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一 ラス・サバスはどこに 西はファンダルから、東はツーノルにかけて、広大なツーノル大湿地帯が、不気味なとかげのような形で二千八百八十キロにもわたって続いている。そのところどころに小さな湖があり、狭い水路が、それらをつないでいる。この密林と湖ばかりの単調な湿地帯に、古い山脈が風化して骨ばかりになったような島が散在して、緑の密林に覆《おお》われている。 バルスーム(火星)のほかの地域の人たちには、このツーノル大湿地帯については、ほとんど何も知られていない。なぜなら、この陰気な地帯には猛獣や恐ろしい爬虫類《はちゅうるい》、野蛮人の種族などが住んでいるうえに、その両側には、ファンダルとツーノルという二つの、仲の悪い国があって、いつも互いに戦争ばかりしているので、他の国の人々は近づくことができないからだ。 ツーノルの近くのある島で、ラス・サバスという火星で第一の大学者が、千年近くも研究を続けていたが、あるときツーノルの皇帝ボビス・カンが、この大学者を島から追い払ってしまった。これに対し敵国のファンダルでは、ラス・サバスに、その科学知識を悪用することなく、人間の病気や悩みを救うために使用すると約束させたうえで、その島を取り返し、彼を元の実験者に返らせてやろうとした。だが、ファンダルの将軍ゴル・ハジュスに率いられた軍勢が敵に打ち破られてしまったため、ラス・サバスは行方不明となり、ほとんどの人たちから、もう死んだものとして忘れられかけていた。 しかし、この大学者を決して忘れることのできない人たちがあった。まず、デュホールの王女バラ・デュアだ。デュアは、サバスのために脳髄《のうずい》を取られて、それを意地悪で年寄りのファンダルの皇妃ザザに移植されてしまったことがあった。おかげでザザは、バラ・ディアのように若く美しくなった。次が、その夫の地球生まれのバド・バロ。彼はラス・サバスの助手を務めたことがあったので、自分の妻の脳髄を取り返して、元どおり妻の体に移植し直した。 ラス・サバスを忘れることのできない人は、もう一人あった。それはヘリウムの王子であり、火星の大将軍である、ジョン・カーターだ。彼はバド・バロから、世界一の偉大な科学者で外科医の、驚異的な才能の話を聞かされて、ひどく好奇心をそそられていたのだ。だから、妻のデジャー・ソリスが、飛行艇の衝突事故で大怪我をして、背中が折れ曲がったまま、もう何週間も意識不明のままで、あとは死を待つばかりであることを告げられた時、ラス・サバスの行方を捜し、その消息を確かめる決心をしたのだ。 だが、どうやってラス・サバスを見つけたらよいだろう。その時、ジョン・カーターは、バド・バロがラス・サバスの助手であったことを思い出した。もし、ラス・サバスを見つけ出せなくても、その弟子が役に立ちはしないだろうか。それに、バルスームの人々の中で、ラス・サバスの消息を最もよく知っている者は、バド・バロであるに違いない。そこで、ジョン・カーターはまず、デュホールに行く決心をしたのだ。 彼は、自分の艦隊の中から、時速六百四十キロも出る新型の小型快速艇を選び出した。初めはたった一人で出かけるつもりだったが、息子のカルソリスと、娘のターラとスピアがそれに反対したので、とうとう直属の士官を一名連れて行くことに同意した。この若い士官の名前は、ボル・ダジという。 さあ、このボル・ダジから、火星での世にも珍しい、驚くべき冒険談を聞くとしよう。 二 大将軍の使命 ぼくは、ボル・ダジだ。ジョン・カーター様の親衛隊の一士官だ。地球人の標準でいったら、もう、とうの昔に老いぼれて死んでいるほどの高齢だが、ここバルスームでは、ぼくはまだ、とても若い。地球人が百年も生きたら、それは珍しいことなのだそうだが、火星人の寿命はふつう千年だ。我々は卵として生まれ、五年後に孵化《ふか》する。その時には、もうほとんど立派な大人に近い。生まれつき気が荒いので、よほど厳しく訓練して手なずけないと、手に負えないことになるのだ。また、その訓練がおそろしく軍隊的ときている。だからぼくは、自分が卵の殻を破って出てきた時は、すでに鎧《よろい》をまとい、武器を携えていたのではないかとさえ思うことだってあるくらいだ。 これで自己紹介は終わり。あなたがたは、ぼくの名前を知ってくれて、ぼくが火星のジョン・カーターのために、身命《しんめい》を捧げきっている闘士であることがわかってくれたら、それでよいのだ。だから、大将軍が、ラス・サバスを捜すために、ぼくを連れて行くことにした時、ぼくが非常な光栄と感じたことはいうまでもない。もっとも、初めのうちは、この任務はさして困難なものではないとたかをくくっていた。ああ、なんと先見の明のなかったことか――。 ジョン・カーターの最初の考えでは、まず、ヘリウムの北東約六千四百キロのデュホールへと飛び、そこで、バド・バロを見つけ出して、彼からラス・サバスの消息を聞き出すつもりだった。 装備を完了した我々の快速艇が、大将軍邸の屋上の発着場から離陸したのは、八時二十五分だった。二つの月、サリアとクルーロスが、明るい星空をよぎってすべるように走り、眼下の大地に、絶えず変化する二重の影を美しく投げかけていた。こんな景色は地球ではとても見られないと、地球生まれのジョン・カーターはぼくに言った。 方向コンパスをデュホールに向けてセットした。モーターが音もなく作動している限り、我々は、艇の操作に時間を費やす必要はまるでない。万一を考えて、デュホールに着いたら、いったん上空で停止するようにした。 敏感な高度計は、約九百メートルの高度を正確に維持する。山地を通過する場合の高度は、約百四十七メートルの距離を保つようにできているのだ。 そのようなわけで、方向コンパスと高度計に絶対の信頼を置いて、我々は気をゆるめ、夜通しうつらうつらしていた。ぼくには何の言い訳もできないし、ジョン・カーターも、ぼくを叱らなかった。いや、むしろ彼は全責任は自分にあるのだと言った。 というのは、まもなく我々の位置に、ひどい狂いのあることに気づいたからだ。それは、日の出をずっと過ぎてからのことだった。デュホールを取りまくアルトリアンの丘の、雪を頂いた姿が前方にはっきりと見えてくるはずなのに、そうならないのだ――ただ果てしもない黄赤色《おうせきしょく》の植物の生えた死んだ海の底と、はるか遠方に、低い丘が見えるだけだった。 我々は急いで位置を調べた。わかったことは、我々はデュホールの南東約一千二百五十二キロの地点、つまり、ツーノル大湿地帯の西端に位置するファンダルの、南西約七百八十二キロの地点にあるということだった。 ……冒頭より |
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