「ミス・マープルのご意見は?(1〜4)」

アガサ・クリスティ/山崎昂一他訳

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各294円

セント・メアリ・ミード村で静かな暮らしを送るミス・マープルは、人のうわさ好き。どんな出来事にも興味をもち、好奇心旺盛で記憶力も抜群。編物が好きで、じっと話に耳を傾けているが、ガーデニングも好きで、通りかかる人物にも注意を怠らない。そして驚くべき洞察力で、事件の謎を解いてしまう。ミス・マープルは長編「牧師館殺人事件」で初めて顔をみせたが、続いて発表された短編集「ミス・マープルと13の謎」でその輪郭も確立した。巻1〜3はその中から選ばれている。

第1巻収録作――「火曜日の夜の集会」「女神像の家」「金塊紛失事件」「血染めの敷石」

第2巻収録作――「茶飲み相手」「四人の容疑者」「クリスマスの悲劇」「別荘事件」

第3巻収録作――「聖ペテロの指のあと」「死の香草」「溺死」

第4巻収録作――「巻尺殺人事件」「すばらしいメード」「管理人の老女」「教会で死んだ男」

アガサ・クリスティ(1890〜1976)「ミステリの女王」の名を冠されたイギリスを代表するミステリ作家。ベルギー生まれの名探偵エルキュール・ポアロの登場する「アクロイド殺人事件」でデビュー。「ABC殺人事件」「三幕の殺人」「ハーゼルムアの殺人」など、ポアロもののほか、田舎住まいの詮索好きなおばあちゃんミス・マープルが登場するシリーズなど、膨大な作品を残した。

立ち読みフロア
女神像の家

「さあ、ペンダー博士、何を話して下さるおつもりですか?」
 老牧師はやさしくほほえんだ。
「わたしは静かなところでばかり暮らしてきました」彼は言った。「波乱の多い出来事などは、ほとんどわたしの方へはやってこなかったのです。でもむかし、若かったころに、一度ひどく不思議で、いたましい経験をしました」
「まあ!」ジョイス・ラムプリエールが、はげますように言った。
「わたしはそれを忘れたことがありません」牧師はつづけた。「そのとき、その経験はわたしに深い印象をあたえました。今日にいたるまで思い出そうとほんの少し努力するだけで、一見、人間力とは全くちがう力によって一人の男が死ぬほどうちのめされている様子を見たおそろしい瞬間の畏怖の念を、くりかえし感ずることができるのです」
「ぞくぞくさせるじゃないか、ペンダー」サー・ヘンリーがぼやいた。
「あなたがおっしゃるのと同じように、わたしもぞくぞくしているのです」相手は答えた。「それ以来、雰囲気という言葉を使う人々を笑えなくなりました。たしかにそういったものが存在しています。ある場所には、その威力を人に感じとらせることができるような、良い力、あるいは邪悪な力が、深くしみこんでいるのです」
「ラーチさんのところのあの家は、ひどく縁起のわるい家なのですよ」ミス・マープルが言った。「スミザーズのおじいさんは、お金をみんななくしてしまって、家を立ちのかなくちゃならなくなったのです。それからカースレイクさんのところで、その家を借りたところが、ジョニー・カイスレイクが二階から落ちて脚を折るし、ミセス・カースレイクは保養にフランスの南部へ行ってしまわなければならなくなってしまいました。そして今度はバーゲンさんの一家が手に入れたのですけれども、気の毒にバーゲンさんは、入る早々手術しなくちゃならないそうですよ」
「そういう事柄には、かなり多すぎるくらいの迷信がつきまとっていると思いますね」ピザリック氏が言った。「不注意にまき散らされる馬鹿げたうわさで、大変な損害が財産にあたえられているのです」
「ひどく乱暴な個性をもっていた幽霊を、一人か二人知っていますよ」サー・ヘンリーがくすくす笑いながら言った。
「わたしの考えでは」レイモンドが言った。「ペンダー博士に話をつづけてもらうべきじゃないでしょうか」
 ジョイスは立ちあがって二つの電灯のスイッチを切り、ゆらめく炉の火の光で、部屋がわずかにてらされるようにした。
「雰囲気がでましたよ」彼女は言った。「さあ、まいりましょう」
 ペンダー博士は彼女に、にっこりとほほえんでから、椅子にもたれかかって鼻眼鏡をとり、静かに感慨ぶかそうな声で、話を始めた。

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