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「王妃マルゴ(下)」 アレクサンドル・デュマ作/鹿島茂編訳 525円 |
| カトリーヌ・ド・メディシスは占い師から「三人の息子が王位につくが、三人とも子を残さずに死に、そのあと王朝の交替がおこって、アンリ・ド・ナヴァールが王位につくであろう」という予言を受けとり、手を替え品を替えてナヴァール王アンリを亡き者にしようと謀る。いっぽうマルゴはプロテスタントの騎士ラ・モールと激しい恋に落ちながら、夫アンリとは夫婦ならぬ「同盟」関係を維持して、政治的なバランスを保持しようと努力する。陰謀はさらなる陰謀を生み、宮廷絵巻は複雑に入り組んで一つの終演を迎える。 | |
| 立ち読みフロア | |
| カトリーヌ・ド・メディシスとアンジュー公は時間どおりにルネの店にあらわれた。 右手の部屋には、熱したコンロの上で鋼鉄の刀が白熱していた。この上に血を注いで生じたアラベスク模様で運命を調べるのである。 アンジュー公が先に入ってきた。アンジュー公はかつらをかぶり仮面をつけ、大きなマントを羽織って変装していた。カトリーヌがあとからあらわれた。彼女は仮面をはずしたが、アンジュー公はそのままだった。 「昨日の晩、星の動きを調べたの?」 「はい、答はもう出ております。蟹座のもとに生まれた人の例にもれず、熱い心と比類なき誇りをもち、強い権力をもっています。四半世紀生きてきて、天から栄光と富をさずけられています。これでよろしゅうございますか」 「そんなところね」 「血と髪の毛はおもちで?」 「はい、これ」 そういうと、カトリーヌは魔術師に、薄いブロンドの髪の束と小壜に入った血を渡した。 ルネは壜をよく振ってから、白熱した刀の上に血をたらした。血液はしばらく沸騰していたが、やがて、幻想的な模様を描き出した。 「なんと、もがき苦しんでいるのが見えます。呻(うめ)いて、助けをもとめています。死の床のまわりでは、激しい戦いが演じられています」 「で、まだ長く生きるの?」カトリーヌは、好奇心から模様をのぞきこもうとしたアンジュー公を制していった。 ルネは用意した祭壇に近づき、カバラの呪文を唱えた。ついで立ち上がると、片手に四分の三ほど血の残った小壜を、もう一方の手に髪の束をつかんだ。そして、カトリーヌに本を渡し、実験が終わったら、どこでもいいから本を開いて、目にとまった最初の一節を読むように命じた。そして、刀の上に残りの血を垂らし、髪の毛を炭火の中に投げこんで、カバラの呪文を唱えた。 たちまち、刀の上に白衣に包まれた死者のような横顔があらわれた。もうひとつ、女のような顔が死者の上に身をかがめているのが見えた。 同時に、髪の毛が燃え上がり、焔を吹き上げた。それは赤い舌のように尖っていた。 「一年です」ルネは叫んだ。「一年足らずで、この男は死にます。女が一人、ベッドで泣いている。いや、刀の端に、子供を抱いたもう一人の女が見える」 カトリーヌはアンジュー公と顔を見合わせ、母親の本能からか、それがどんな女かをたずねた。 だが、すぐに、刀はまた銀色にもどり、すべての模様は消えていた。 そこでカトリーヌは、本を適当に開き、目の留まった箇所を読んだが、さすがの彼女も震えを隠すことはできなかった。 かくて、恐れられし男、みまかれり。 早く、あまりに早く。気遣いも空しく。 しばし、炭火のまわりを深い沈黙が覆った。 「それはそうと、例の男の今月の運勢はどうなの?」 「あいかわらず、素晴らしいものでございます。神が別の神と戦って運命を変えないかぎり、まちがいなく、未来は彼のものです。ただ……」 「ただ?」 「彼の七つ星のひとつが、黒い雲に覆われています」 「黒い雲? じゃあ、希望がもてるのね」 ……第四十一章「占い」より |
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