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「ホームズの事件簿(1・2)」 コナン・ドイル作/内田庶・中尾明訳 (2)ドットブック 156KB/テキストファイル 108KB 各巻315円 |
| あわせて12編からなるシャーロック・ホームズもの最後の短編集。第1集には「有名な依頼人」「白面の兵士」「マザリンの宝石」「三人ガリデブ」「ソア橋事件」「覆面の下宿人」の6編を収録。第2集には「三破風館の謎」「サセックスの吸血鬼」「はう男の秘密」「ライオンのたてがみ」「ショスコムの納骨所」「引退した絵具屋」の6編を収録した。 | |
| 立ち読みフロア | |
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「いまとなっては、もうだれにも迷惑はかからないだろう」 シャーロック・ホームズが、やっとそういってくれるまで、何年かかったことか。そのあいだ、わたしは、これから書きしるす、ホームズが活躍するある事件を発表させてほしいと、十回も頼み続けた。 こうして、ホームズが探偵として一番活躍していた時代の、それもたいへん変った事件を、わたしは発表できることになったのである。 ホームズもわたしも、サウナ風呂が大好きである。風呂からあがって、休憩室で汗のひくあいだ、パイプをくわえてタバコをすう。風呂あがりの気持ちのよい、ぐったりさに、心地よくひたっているときは、ホームズもふだんより、いくらか口が軽くなって、おしゃべりになる。ホームズが、すこしは普通の人間になるときである。 ノーサンバランド大通りのサウナ風呂の二階に、寝いすが二つならべておいてある、ちょっとはなれた静かな場所がある。これから話そうとする事件がはじまるのは、一九〇二年九月三日、この寝いすに、ふたりがならんで横になっていたときであった。 わたしは、ホームズに、ちかごろ何か、かわったことが起きなかったか、たずねた。 すると、ホームズは口で答えるかわりに、からだに巻きつけたシーツのあいだから、長くて細い神経質そうな腕を、にゅっとだした。そして、そばにかけている上着のポケットをさぐって、一通の手紙をとりだした。 「たいしたことでもないのに、ご本人だけが騒ぎたてているものなのか、それともほんとに生きるか死ぬかの問題なのか。いまのところ、ぼくにも、これに書いてあることだけしかわからないんだがね」 ホームズは、そういって、手紙を渡してくれた。 見ると、封筒には、カールトン・クラブの名が印刷されていた。日付は前の日の夜である。封筒の中身をとりだして読むと、つぎのようなことが書いてあった。 シャーロック・ホームズさま まだお目にかかっていませんが、わたくし、サー(卿)・ジェームズ・デマリーは、かねてから、あなたさまを尊敬している者であります。 さて、とつぜんですが、たいへん重要であり、できるかぎり用心深くあつかう必要のある問題について、ご相談もうしあげねばならなくなりました。明日の午後四時半、おたずねいたします。なにとぞ、お会いいただけますよう、お願いもうしあげるものです。 なおカールトン・クラブまで、電話でご都合を、おしらせいただけましたら、ありがたくぞんじます。 「もちろん、承知したと返事をしておいたけどね、ワトスン」 わたしがかえす手紙を受けとりながら、ホームズは逆にたずねてきた。 「きみは、このデマリーという男について、なにか知っているかい?」 「そうだね、貴族や身分の高いひとたちだけ集まってつきあう社交界では、名が知れわたっているということぐらいかな」 「じゃあ、ぼくのほうが少しは知っていることになるか。あのひとたちの社交界で、新聞に出てもらいたくない、やっかいな事件を、おもてざたにしないで解決することで、評判の男だ。きみもおぼえているだろう、ほら、ハマフォードの遺言状事件で、ジョージ・ルイス卿と、どんなぐあいに巧みににはなしあったか。あの男だよ。 貴族にしては、交渉ごとのじょうずな才能がある。だからきょう、ぼくのところにもちこんでくる相談ごとにしても、ただのお騒がせでなくて、ほんとにぼくらの助け舟を必要しているものではないかと、期待しているんだけどね」 「ぼくらだって?」 「そうさ、手つだってくれるんだろう、ワトスン?」 「もちろん、よろこんで手つだうよ」 「じゃあ四時半だよ。それまでは、この問題は忘れてしまうことにしよう」 ……「有名な依頼人」より |
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