![]() |
「シャーロック・ホームズの冒険」
コナン・ドイル作/鈴木幸夫訳 愛蔵版 |
| 名探偵シャーロック・ホームズの名を不朽のものにしたドイルのホームズ物傑作短編第一集。「ボヘミア王家の色沙汰」から始まって「ぶなの木館」まで全12編をテンポ快調な鈴木幸夫訳でおくる。ホームズ物が大人の読み物であり、現在も100年前と同じ人気を誇る理由は、最初の一編を読めば一目瞭然。ホームズの魅力を知るための絶好の入門編。愛蔵版には「ストランド」誌発表時のシドニー・パジェットのイラスト20点収録。 | |
| 立ち読みフロア | |
|
私はこの八年間にわたって、わが友シャーロック・ホームズのやり方を研究してきたのであるが、この間に書きとめた七十件あまりの事件のノートをくってみると、そこには多くの悲劇と、喜劇もいくつか見られるのであるが、いずれもきわめて風変わりな事件であって、平凡なものは一つもない。というのも、ホームズがこれまで仕事をしてきたのは、金もうけというより自分の技術を愛する上でのことで、非凡で奇怪にも見える事件になりそうなものでなければ、調査に乗り出そうとはしなかったからである。しかし、これらのいろいろな事件の中でも、ストーク・モランのロイロット一家の、あの有名なサリー州の一家に関する事件ほど、奇怪な様相を呈していたものを、ほかには思い出すことができない。 この問題の事件は、私がホームズとつき合って間もなく起こったもので、そのときは私はまだ独身であったこととて、ベイカー街で二人で同居生活をしていた。この事件はずっと前に記録に書いておいてもよかったのであるが、当時秘密にしておく約束をしたわけで、これを発表できるようになったのは、つい先月、その約束をした相手の婦人がはからずも亡くなったからである。もう今は事実を明るみに出すほうがよさそうである。というのは、グライムズビー・ロイロット博士の死に関して、この件を真実以上に恐ろしいものにしかねない噂(うわさ)が広まっていることを、私は故(ゆえ)あって知っているからである。
一八八三年の四月はじめのころ、ある朝目を覚ますと、シャーロック・ホームズはすっかり着こんで、私のベッドのかたわらに立っていた。ホームズはきまって朝寝坊なのだが、マントルピースの時計を見ると、まだ七時を十五分過ぎたばかりなので、私はふと驚いて、ぱちくりしながら彼を見上げた。ほんの少々不服そうな顔つきを見せたかもしれない。私は規則正しい習慣を守っていたからである。 ……《まだらのひも》より |
|