「青い鳥」

メーテルリンク/鈴木豊訳

ドットブック版 189KB/テキストファイル 88KB

400円

貧しいきこりの子の兄妹チルチルとミチルはクリスマス・イブの夜、仙女の訪問を受け、その言い付けで「青い鳥」を探しに出かける。「思い出の国」「夜の宮殿」「未来の王国」などを探しまわるが、どこにも「青い鳥」は見つからない。ようやく自分たちの家に帰ってきたとき、すべては夢だったことがわかる。そして「青い鳥」(幸福)は家で飼っていたキジバトだったことを知る…メーテルリンクの代表的な夢幻劇。

メーテルリンク(1862〜1949)ベルギーのヘント(ガン)生まれの詩人・劇作家。最初は弁護士になったが、24歳のときパリに出たことがきっかけとなって詩作・劇作を志した。89年処女詩集「温室」を書いてベルギー文壇で絶讃されたが、同年に書いた戯曲「マレーヌ姫」がマラルメに注目されてフランス文壇でも一躍有名になり、以後クローデルらとともに象徴劇の第一人者となった。代表作「闖入者」「ペレアスとメリザンド」「青い鳥」など。作品はすべてフランス語で書かれている。

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第一幕 第一景 きこり小屋

〔幕があがると、チルチルとミチルが小さなベッドでぐっすりと眠っている。お母さんチルが、もう一度二人に毛布をかけ直し、しばらく二人が眠っている様子を眺めている。ちょうど半ば開いたドアから首を差し出したお父さんチルを手で呼び寄せる。お母さんチルは唇に指を押しつけて、お父さんチルが声をたてないように合図し、ランプを消してから、爪先で歩きながら右側から出てゆく。舞台はしばらく暗闇のまま。やがてよろい戸ごしに明りが差し込み、その光がだんだんと強くなってゆく。テーブルの上のランプがひとりでにつく。どうやら二人の子供が目を覚ましたらしく、ベッドの上に坐る〕
【チルチル】 ミチル?
【ミチル】 おにいちゃん?
【チルチル】 ねてるのかい?
【ミチル】 おにいちゃんは?……
【チルチル】 ねていないよ。お前と話しているんだもの、ねているわけはないじゃないか……
【ミチル】 ネエ、今日はクリスマスなの?
【チルチル】 でもサンタクロースは今年はなにも持って来ないよ……
【ミチル】 どうして?……
【チルチル】 お母さんに聞いたんだけれど、お母さんは町へ出かけて、サンタクロースにそう言うひまがなかったんだって……でも来年はきっと来るよ……
【ミチル】 来年って、なかなかなの?……
【チルチル】 すぐじゃあないさ……でも、お金持の子供の家へは今夜来るんだぜ……
【ミチル】 そうなの?
【チルチル】 アレッ!……ママがランプを消すのを忘れてるぜ!……いいことがあるぞ……
【ミチル】 どんなこと?
【チルチル】 起きようよ……
【ミチル】 でもいけないって言われてるのよ……
【チルチル】 だってだれもいないんだもの、かまうもんか……よろい戸が見えるかい?……
【ミチル】 アラッ! なんて明るいんでしょう!……
【チルチル】 パーティの明りだよ。
【ミチル】 なんのパーティなの?
【チルチル】 前の、お金持の子供の家のさ。クリスマス・ツリーだぜ。よろい戸を開けてみよう……
【ミチル】 だいじょうぶかしら?
【チルチル】 もちろんだいじょうぶさ、だってぼくだちだけだもん……音楽が聞えるかい?……起きようぜ……
〔二人の子供は起きて、窓のひとつに駆け寄って踏み台へ登り、よろい戸を押して開ける。明るい光が部屋の中に差し込む。子供たちは夢中になって外を見る〕
【チルチル】 すっかり見えるぞ!
【ミチル】 〔踏み台の上には、ようやく立っているだけの場所しかない〕見えないわ。
【チルチル】 雪が降ってるよ!……六頭だての馬車が二台あるぞ!……
【ミチル】 男の子が十二人出てきたわ!……
【チルチル】 バカだな、お前は!……あれは女の子だよ!……
【ミチル】 ズボンをはいてるわよ……
【チルチル】 わかりもしないくせに……そんなに押すなよ!……
【ミチル】 あたしに触らないでよ。
【チルチル】 〔踏み台をひとりじめにして〕お前は場所をみんな取っちまってるぜ……
【ミチル】 あたしの場所なんかぜんぜんないわよ!
【チルチル】 黙ってろよ、木が見えるぜ!……
【ミチル】 なんの木なの?……
【チルチル】 クリスマス・ツリーだよ……なあんだ、壁を見てるんじゃないか!……
【ミチル】 だって場所がないんですもの……
【チルチル】 〔踏み台の場所をちょっと空けてやり〕ホラ!……これで充分だろ?……そっちのほうがずっとよくなったろ?……明りがたくさんついてるぞ! ずいぶんあるなあ!……
【ミチル】 あんなに大騒ぎして、あのひとたちなにをしているのかしら?
【チルチル】 音楽をやってるのさ。
【ミチル】 あのひとたち、怒ってるのかしら?
【チルチル】 ちがうよ、ただ疲れただけさ。
【ミチル】 また白いうまをつけた馬車がきたわ!
【チルチル】 口をきくなよ!……見ていろよ!
【ミチル】 木の枝に下がっている、あの金色のものはなあに?
【チルチル】 もちろんおもちゃさ! サーベルに、鉄砲に、兵隊に、大砲だよ……
【ミチル】 ネ、お人形はどう、枝にさげてないかしら?
【チルチル】 人形だって?……バカバカしい。人形なんてちっとも面白くないや……
【ミチル】 テーブルのまわりにあるの、あれはなにかしら?
【チルチル】 お菓子に、くだものに、クリーム・パイだよ。
【ミチル】 小っちゃいとき、一度クリーム・パイを食べたことがあるわ……
【チルチル】 ぼくもだよ。パンよりおいしいね。でも、ほんの少ししかもらえなかったよ。
【ミチル】 ほんの少ししかなかったんですもの……テーブルいっぱいにあるわよ……あのひとたち、あれをこれから食べるのかしら?
【チルチル】 もちろんさ。ほかにどうすればいいんだい?
【ミチル】 あのひとたち、どうしてすぐに食べないの?
【チルチル】 お腹がすいてないからさ……
【ミチル】 〔びっくりして〕お腹がすいていないんですって?……どうして?
【チルチル】 ほしいときにいつでも食べるからだよ……
【ミチル】 〔信じられない様子で〕毎日そうなの?
【チルチル】 そうらしいよ。
【ミチル】 みんな食べるのかしら?……ご馳走するのかしら?
【チルチル】 だれに?
【ミチル】 あたしたちに……
【チルチル】 ぼくたちのことなんか知らないんだぜ。
【ミチル】 ご馳走してって、頼んだら?
【チルチル】 そんなことむりだよ。
【ミチル】 どうして?
【チルチル】 だっていけないって言われてるんだもん。
【ミチル】 〔両手をたたいて〕アラッ! なんてきれいなんでしょう!
【チルチル】 〔夢中になって〕笑ってるぞ、笑ってるぞ!
【ミチル】 子供たちがダンスをしてるわ!
【チルチル】 ほんとだ、ほんとだ、こちらもダンスをしようよ!
〔二人は大喜びで踏み台の上で足を踏み鳴らす〕
【ミチル】 アア! ほんとに面白いわ!
【チルチル】 お菓子をもらってるぞ!……もう手をつけてもいいんだな!……食べてる! 食べてる! 食べてるぞ!
【ミチル】 いちばん小っちゃい子まで食べてるわ! 二つ、三つ、四つも!
【チルチル】 〔夢中になって喜び〕アア! いいなあ!……いいなあ!……ほんとにいいなあ!
【ミチル】 〔もらったつもりになって、お菓子を数えながら〕あたし、十二ももらっちゃったわ!
【チルチル】 ぼくは十二の四倍だぞ! お前にもあげるよ!
〔小屋の戸をたたく音がする〕
【チルチル】 〔急に静かになって、怖がり〕なんだろう?……
【ミチル】 〔おびえて〕パパだわ!

……冒頭より


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