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「アンの愛情」 モンゴメリ/
谷詰則子訳 525円 |
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年来の希望がかない、レドモンド大学で学ぶことになったアンは、彼女に恋心をいだくギルバートとともに、新しい学生生活に入っていく。アンはすばらしい「パティーズ・プレイス」に、仲良しの3人とともに住む。新しい環境、新しい友人のなかで、さまざまな経験を積み重ねながら、アンはようやく真実の愛に目覚めていく。シリーズ第3作! L・M・モンゴメリ(1874〜1942)はカナダのプリンス・エドワード島生まれ。祖父母に育てられ、大学を出たあと故郷の島で教職についたが、祖母を助けて郵便局の仕事にたずさわる。31歳のときに書いた「赤毛のアン」が3年後に日の目をみると、たちまちベストセラーとなった。以後、「アン物語」は8編のシリーズとなった。 |
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| 立ち読みフロア | |
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「刈入れ済んで、夏去りぬ」と、刈り込まれた畑をうっとりと見渡しながら、アン・シャーリーは引用句を口ずさんだ。グリーン・ゲイブルズの果樹園で、ダイアナ・バーリーと一緒にリンゴを摘んでいたのだが、今は、日当りの良い一画で一休みしているところだった。お化けの森のシダの香りで、まだ夏の芳(かんば)しさを残す風の翼に乗って、アザミの冠毛の飛行隊が辺(あた)りを漂っていた。 だが、二人の周りの風景のすべては、秋を物語っていた。海は遠くでうつろなうなりをあげ、枯れて丸裸の畑はアキノキリンソウにおおわれ、グリーン・ゲイブルズの下方の小川の流れる谷は大気のような紫のエゾギクであふれ、輝く湖水は青――青――青一色だった。それは、春の変化に富む青でも、夏の薄い空色でもなく、まるで水が感情のあらゆる気分と時相を通り過ぎて、気まぐれな夢に破られることのない静けさに落ち着いたかのような、澄んだ、安定した穏やかな青だった。 「素敵な夏だったわ」と左手の新しい指輪を回しながら、ダイアナが微笑んだ。「そして、ミス・ラヴェンダーの結婚式は、それを飾る一種の王冠としてあったようだわ。アーヴィング夫妻は、今頃、太平洋岸でしょうね」 「二人が行ってしまってから、世界を一周できるほど長い時間が経(た)ったような気がするわ」とアンはため息をついた。「結婚なさってから、たったの一週間だなんて信じられないわ。何もかも変わってしまったんですもの。ミス・ラヴェンダーとアラン夫妻が行ってしまって――牧師館はよろい戸が全部閉められて、何て寂しげなことか! 昨夜、あそこを通り過ぎたのだけど、まるで中の人が皆死んでしまったような感じを受けたわ」 「アランさんほど素敵な牧師さんは決して得られないでしょうよ」とダイアナは、悲観的な確信を持って言った。「この冬は、あらゆるタイプの代理が来るでしょうし、日曜日の半分は全く説教なしでしょうね。それに、あなたもギルバートも行ってしまう――ひどくつまらなくなるわ」 「フレッドはここにいてよ」とアンは茶目っぽく当てこすった。 「リンドのおばさんは、いつ引っ越して来るの?」とダイアナは、まるでアンの言葉が耳に入らなかったかのように尋ねた。 「明日よ。おばさんが来てくれるのがうれしいわ――でも、それも一つの変化なの。昨日、マリラと二人で客用寝室をすっかり空っぽにしたの。でもね、私はそうしたくなかったのよ。もちろん、そんなのばかげていたわ――だけど、まるで自分たちが神聖を汚しているような気がしたのよ。あの古い客用寝室は、私にはずっと聖堂のようなものだったの。子供の頃は、あそこが世界で一番素晴らしい部屋だと思っていたわ。私がどんなに客用寝室のベッドで眠りたいと胸を焦がしていたか覚えているでしよ――ただし、グリーン・ゲイブルズの客用寝室ではなくて。ああ、いいえ、決してあそこではなかったの! それじゃ、あまりに恐ろし過ぎるもの――畏(おそ)れ多くて、一睡もできなかったでしょうよ。マリラが用事で私をあの部屋に行かせた時も、中をずかずか歩いたことは一度もないわ――ええ、本当ですとも。まるで教会にいるみたいに、息を殺して爪先で歩いて、出たらほっとしたものよ。あそこの鏡の両側に一つずつ、ジョージ・ホワイトフィールドとウェリントン公爵の絵が掛かっていて、私がいる間中、特にあえてその鏡をのぞこうものなら、ひどくいかめしいしかめ面をして私を見ていたんですもの。その鏡が、家で唯一、私の顔を少しも歪めずに映す鏡だったのよ。私はいつも、どうしてマリラはあの部屋を掃除できるのか不思議だったわ。それが今は、掃除だけじゃなく――空っぽにされているのよ。ジョージ・ホワイトフィールドと公爵は、二階の廊下に左遷されてしまったわ。『この世の栄華は、かく移り行く』」とアンは笑って言葉を結んだが、その調子には残念な気持ちが少々感じられた。「自分たちの昔の聖堂が俗用に供されるのは、決して愉快なことじゃないわ。私たちが大きくなって、そんな畏(おそ)れを感じなくなってしまってからでさえね」 「あなたが行ってしまったら、寂しくなるわ」とダイアナが百回目のうめき声をあげた。「しかも、来週発(た)つと思うと!」 「でも、私たちはまだ一緒にいるのよ」とアンは陽気に言った。「来週なんかに、私たちの今週の喜びを奪わせちゃだめよ。私だって、行くことを考えたくないの――我家とこんなに仲良しなんですもの。寂しいだなんてとんでもない! うめかなければならないのは、この私よ。あなたは、何人もの旧友たちと一緒にここにいるんですもの――それに、フレッドも! 私は、誰一人知り合いもなく、見知らぬ人々の中で一人ぽっちになるというのに」 「ギルバートを除いてはね――それに、チャーリー・スローンも」とダイアナは、アンの強調した物言いと茶目っけをまねて言った。 「チャーリー・スローンは、大いに慰めになるわ、もちろん」とアンは皮肉っぼく同意した。そこで、その無責任な乙女たちは二人とも笑った。ダイアナは、アンがチャーリー・スローンのことをどう思っているか、正確に知っていた。しかし、いろいろな打ち明け話をしたにもかかわらず、アンがギルバート・ブライスをどう思っているのかは、はっきりわからなかった。確かに、アン自身にもわからないのだった。 「恐らく、男の子たちはキングスポートの向こう端で下宿するでしょう」とアンは続けた。「レドモンドへ行くのはうれしいし、しばらくしたら、きっと好きになると思うわ。でも、最初の二、三週間はだめだってわかっているの。クイーンに行っていた時と違って、週末に帰省するのを心待ちにする慰めさえないのよ。クリスマスは、千年も先のように思えるわ」 「すべてが変わりつつある――あるいは、変わろうとしているのね」とダイアナは悲しげに言った。「物事は、二度と再び元通りになることはないという感じがするのよ、アン」 「私たち、岐路に来てしまったのよ、多分」と思案げにアンは言った。「来なければならなかったんだわ、ここへ。ねえ、ダイアナ、大人になるって、よく子供の頃想像したほど素敵だと思う?」 「さあ、わからないわ――幾らかいいこともあるし」とダイアナは再びあのちょっとした微笑みを浮かべて指輪をなでながら答えたが、その微笑みを見るといつもアンは、突然、のけものにされた、自分は無経験だと感じさせられるのだった。「でも、まごつかせられることもとてもたくさんあるし。時々、まるで大人になるなんて恐ろしいだけだという気がするの――そしてそんな時には、もう一度小さな女の子に戻るためなら何でも手放すでしょうよ」 ……第 一章冒頭より |
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