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メグレ警視シリーズ 「港の酒場で」 ジョルジュ・シムノン/木村庄三郎訳 ドットブック 156KB/テキストファイル 95KB 420円 |
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六月のある朝、メグレのもとに小学校の先生をしている旧友から一通の手紙が届いた。港町フェカンでトロール船の船長が殺され、教え子の電信係が犯人にされたという…。真相の究明を依頼されたメグレは、休暇を田舎のアルザスで過ごす用意をしていた夫人を誘って、急遽、フェカンへと赴いた。 ジュルジュ・シムノン(1903〜89)ベルギーのリエージュ生まれ。16歳で新聞社の通信記者になり、17歳で処女小説を発表。20歳にはパリに出て、多くのペンネームを使って作品を書きまくる。そのなかで一番の当たりをとったのがジョルジュ・シムノン名義の「メグレ・シリーズ」だった。シリーズの処女作「怪盗レトン」は1930年に27歳のときに書かれて大評判となり、以後、メグレ物をほとんど毎月一冊のペースで発表、シリーズは長短78編に達する。1983年には「筆を断つ」を宣言をしてスイスの山中に閉じこもり、話題をまいた。 |
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《かれは、この田舎町(いなかまち)では、指折りの模範青年で、それに親ひとり子ひとりです。母親は、このままでは、死んでしまうかもしれません。ぼくは土地の人びとと同様、かれは、たしかに無罪だと思います。しかし水夫たちに話すと、口をそろえて、裁判官は海上のことに関しては、全然無知だから、たぶん有罪にされるだろうというんです。…… ひとつ、きみ自身の仕事だと思って、できるだけのことをしてやってくれませんか。お願いします。……新聞で、きみが司法警察の要職についたことを知りました。それで……》 六月の朝。リシャール・ルノワール街に面したアパート。窓を全部あけはなした部屋のなかで、メグレ夫人は、いましも、柳の枝で編んだ大きなトランクを詰めおえたところであった。メグレはカラーなしの、くつろいだ姿で、低い声で読んでいた。 「だれからなの?」 「ジョリッサン。……むかしの学校友だちだ。いま、カンペールで小学校の先生をしている。ところで、きみは一週間の休暇を、どうしてもアルザスですごすつもりかい?」 夫人は、けげんな顔で夫を見た。というのは、この質問は、いかにも唐突(とうとつ)だったからである。夫婦は二十年このかた、きまって休暇を、東部のメグレの生家と同じ村にある、夫人の両親の家ですごす習わしであった。 「どうだい、たまには海へいっては?」 かれは、また低い声で手紙を読みつづけた。 《きみは、もちろん、ぼくなんかより、はるかに正確な情報を入手し得る立場にあるが、かんたんにいえば次のとおりです。ぼくの教え子で、二十歳になるピエール・ル・クランシュという青年が、三月(みつき)前、フェカンのトロール船で、ニューファウンドランドでタラ漁をする大西洋号というのに乗り組みました。船は一昨日、フェカンに帰港しましたが、それから数時間後、船長の死体が岸壁ちかくで発見され、他殺と断定されました。ところで逮捕されたのが、このピエール・ル・クランシュなんです……》 「フェカンで休暇をすごしたって、よそよりも、つまらないということもないだろう」と、メグレは、なにげなく言ってみた。 返事がなかった。メグレ夫人は郷里のアルザスでは、家族水入らず、プラムでジャムをつくったり、リキュールをつくったりするのを手伝うのであった。海岸のホテルで、あいもかわらずパリ人のあいだにまじって暮らすことは、思ってもぞっとした。 「一日じゅう、いったい、なにをしてたらいいの?」 でもけっきょく、編み物や針仕事を持っていくことにした。 「でも海水浴だけは、まっぴらよ。それは、いまから、お願いしとくわ」 ……冒頭より |
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