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「二都物語」 ディケンズ作/本多顕彰訳 愛蔵版 |
| フランス革命時代のパリとロンドンの二大都市を舞台に繰り広げられる歴史ロマン。パリの貧民窟で怪しげな酒場を営むドファルジュ夫妻、ときおりそこで取り交わされる暗号めいた名前のやりとり……革命の機運はいつともなくしだいに熟して貴族の暗殺に始まり、ついにバスチーユ監獄への攻撃となって爆発する。貴族の暮らしを嫌ってフランスから英国へ渡り、名前まで変えて静かに腰を落ち着けていたダーネーは、パリから一通の手紙をもらうと、新婚まもない妻を残して一人、革命の渦中に身を投ずる。そこに待ち受けていたのは「亡命貴族」のレッテルのもとでの「死の断罪」であった。 | |
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それは一七七五年のことであった。精神的な問題では、全体として、楯(たて)と三叉戟(さんさほこ)の姉妹(イギリスのこと)よりも恵まれていないフランスは、紙のお金を拵(こしら)えては使いながら、しごく滑(なめ)らかに丘をすべり落ちて行った。その上、フランスは、キリスト教の牧師の指導のもとに、五十ヤードか六十ヤードも離れたところを通るきたない僧侶の行列を見ながら、それに敬意を表して、雨の中にひざまずかなかったからといって、若者の両手を切りおとし、釘抜きで舌を抜き、生身を火あぶりにするという情深い仕置きをして楽しんでいた。その被害者が死刑に処せられたとき、フランスとノールウェーの森の中で、《宿命》という名の木こりが印をつけた樹(き)が育っていて、それは、いずれ切りたおされて、板に挽(ひ)かれ、袋と刃物のある史上にも恐るべきある種の道具が作られるはずになっていたのは、ふしぎではない。また、それと日を同じくして、パリに隣接する粘っこい土地の耕作者の荒れた離れ家の中に風雨をさけている粗末な荷車が、畑の泥にまみれ、豚に嗅ぎまわされ、家禽(かきん)のねぐらにされながらも、すでに《死》という名の百姓が、それを革命の時の死刑囚護送車としてとりのけておいたのだということもふしぎではない。しかし、その木こりも、その百姓も、たえまなく仕事をしてはいたが、物音をたてずに働き、足音もさせずに動きまわるので、誰ひとり聞きつける者はなかった。まして、彼らが目をさましていやしないかなどと疑いを抱くのは不信心であり、反逆であるとされていたから、なおさらであった。 ……冒頭部分より |
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